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東京地方裁判所 平成4年(ワ)2543号 判決

原告

吉近正之

外一九名

右二〇名訴訟代理人弁護士

山本真一

志村新

田辺幸雄

被告

日本交通株式会社

右代表者代表取締役

川鍋達朗

被告

第十日本交通株式会社

右代表者代表取締役

川鍋達朗

右両名訴訟代理人弁護士

渡辺修

吉沢貞男

山西克彦

冨田武夫

伊藤昌毅

峰隆之

主文

一  被告日本交通株式会社は原告広瀬東洋雄に対し、金一万六八六六円及び内金一万四〇二六円に対する平成三年三月二六日から、内金二八四〇円に対する同年七月六日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告日本交通株式会社は原告小早川壮伺に対し、金一万五五一二円及び内金一万三一九二円に対する平成三年一月二六日から、内金二三二〇円に対する同年七月六日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  原告広瀬東洋雄及び原告小早川壮伺のその余の請求並びに原告広瀬東洋雄及び原告小早川壮伺を除くその余の原告らの請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、

1  原告広瀬東洋雄及び小早川壮伺に生じた費用と被告日本交通株式会社に生じた費用の一七分の二を同被告の負担とし、

2  別紙原告一覧表(二)の原告番号一ないし七、九ないし一二、一四ないし一七の各原告に生じた費用と被告日本交通株式会社に生じた費用の一七分の一五を右原告らの負担とし、

3  同表の原告番号一八ないし二〇の各原告に生じた費用と被告第十日本交通株式会社に生じた費用を右原告らの負担とする。

五  この判決は、第一及び第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告日本交通株式会社(以下「被告日本交通」という。)は別紙原告一覧表(一)の原告番号一ないし一七の各原告に対し、被告第十日本交通株式会社(以下「被告第十日本交通」という。)は同表の原告番号一八ないし二〇の各原告に対し、同表の合計額欄記載の各金員並びに小計額及び一時金欄記載の各金員に対する支払期日欄記載の各支払期日の翌日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告日本交通又は被告第十日本交通のタクシー乗務員である原告らの年次休暇権の行使に対して、被告らが欠勤処理をして賃金及び一時金をカットしたのは違法であると主張して、原告らが被告らに対して右各カット分の支払などを求めた事案である。

一  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、末尾掲記の証拠によって認めることができる。

1  当事者

被告日本交通は、タクシー等による旅客運送事業等を目的とし、肩書地に本社を、常盤台及び千住に各第一ないし第三営業所を、目黒、目白、蒲田等に各営業所を有する従業員数約五六〇〇名、保有タクシー台数一〇九七台(平成三年三月時点)の株式会社であり、被告第十日本交通は、タクシー等による旅客運送事業等を目的とし、肩書地に本社を、常盤台(第四)、千住(第四)及び三鷹に各営業所を有する従業員数約七五〇名、保有タクシー台数三四六台(同月時点)の株式会社である。

別紙原告一覧表(二)の原告番号一ないし一七の各原告は被告日本交通に、同表の原告番一八ないし二〇の各原告は被告第十日本交通にそれぞれ雇用され、いずれもタクシー乗務員として勤務していた者であり、原告らの所属営業所及び入社年月日は、それぞれ同表の営業所及び入社日欄に記載のとおりである。また、原告らは、被告らの従業員で組織する日本交通労働組合(以下「日交労組」という。)の組合員である。なお、被告らの従業員が組織する労働組合としては、日交労組(平成六年五月時点で六五八名)のほか、日交労働組合(同四九一〇名、以下「日交労」という。)及び同盟交通労連日本交通労働組合(同一一五名、以下「同盟日交労組」という。)がある(乙第二〇号証、弁論の全趣旨)。

2  年次休暇の定め

被告らの就業規則は共通しており、従業員の年次有給休暇に関し、次のとおり規定されている。

第四五条(年次有給休暇)

会社は、一年間継続勤務し、全労働日の八割以上出勤した従業者に対し、継続しまたは分割して次の年次有給休暇を与える。

一号 勤続一ヵ年以上の者 一〇日

勤続二ヵ年以上の者 勤続一年ごとに一日を加算した日数。ただし、総日数は一年間に二二日までとする。

(一項二号、二項は省略)

第四六条(年次有給休暇の使用)

従業員は、年次有給休暇を使用する場合は、原則として勤務編成表作成前までに所定の様式により所属長に届け出るものとする。ただし、やむを得ない場合は、出来るだけすみやかに届け出なければならない。

2  会社は、従業員の届け出た時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営に支障をきたすと認めたときは、これを他の時季に変更することができる。

第四九条(休暇請求の手続き)

従業員は、第四五条(中略)の規定に該当する休暇を請求するときは、それぞれ所定の手続きによって行うものとする。

3  賃金カット

(一) 原告らの賃金は、基準賃金(基礎給、本給・乗務給、勤続給及び乗務手当)、歩合給、各種手当(営業回数手当、ジゴ手当等)、その他(年次有給休暇手当、通勤交通費等)で構成されており、賃金の締切日は毎月一五日で、支払日は当月二五日である。また、被告らは、従業員に対して別紙夏季一時金支給表記載の条件で平成三年度夏季一時金を同年七月五日に支給した。

(二) 原告らは、別紙原告一覧表(二)の年休行使日欄記載の各期日に、同表の時季指定日欄記載の各勤務割当日を年次休暇とする時季指定を行った(以下「本件年休指定」という。)ところ、被告らは、原告らの本件年休指定にかかる時季指定日をすべて欠勤として取り扱い、原告らに対して同表の支払期日欄記載の各支払期日に支給した賃金から、同表の本給、勤続給、休暇手当及び一時金欄記載の各金員をカットした(乙第一八号証の二、第二二号証、第二八ないし第三三号証、弁論の全趣旨)。

4  ナイト乗務

被告らは、深夜のタクシー需要の急増に応えるために導入されたブルーラインタクシー(昭和六二年認可)、暫定車両(平成二年認可)と呼ばれる夜間専用車両(運行日は原則として月曜日から金曜日まで、運行時間は午後七時から翌朝午前四時まで、一乗務につき二ないし三回繁華街等の指定されたタクシー乗り場に回送し、当該乗り場の乗客を乗せること(計画配車)が義務づけられている。)を稼働させるため、平成二年七月一六日からタクシー乗務員全員を対象に特別の勤務シフトを導入したが、その勤務サイクルは、一か月に一三回乗務する月に、そのうちの一乗務をナイト乗務にあてて夜間の日勤勤務に従事するというものである。原告らが本件年休指定を行った時季指定日は、いずれもこのナイト乗務を割り当てられた日であった(乙第一三号証、証人吉田征弘の証言)。

二  争点

1  本件年休指定が労働基準法(以下「労基法」という。)三九条四項本文の定める年次休暇の時季指定といえるか。

(被告らの主張)

本件年休指定の実体は、以下に述べるとおり、原告らが嫌悪するナイト乗務という特定業務の拒否であり、原告らはナイト乗務の拒否に伴う賃金請求権の喪失、懲戒等の不利益処分を免れるため、外形上は年休申請行為であるかのように装ったものであり、こうした外形にすぎない原告らの本件年休指定は、本来の年次休暇権の行使とはいえないというべきである。

(一) 法律行為の解釈として、たとえ外形的に年次休暇の時季指定とみられる行為があったとしても、その実質がそのように評価できない場合には、その実体に応じて法律効果を論ずべきである。判例上、一斉休暇闘争は実質的に年次休暇に名を藉りた同盟罷業にほかならず、本来の年次休暇権の行使ではないとし(最高裁第二小法廷昭和四八年三月二日判決・民集二七巻二号一九一頁(林野庁白石営林署事件)、最高裁第二小法廷同日判決・民集二七巻二号二一〇頁(国鉄郡山工場事件)参照)、また、いわゆる割休闘争についても、それが当該事業場における事業の正常な運営の阻害を目的とするものであれば、同じく同盟罷業として本来の年次休暇権の行使ではない(最高裁第一小法廷昭和六一年一二月一八日判決・判例時報一二二〇号一三六頁(道立夕張南高校事件)参照)とされているなど、行為の実質に着眼して本来の年次休暇権の行使にあたらない場合には、年次休暇の成立を否定している。

ところで、労働者は、労働契約上、使用者の就労請求に応じて労務を提供すべき一般的義務を負っているから、ある特定業務への就労拒否が右義務懈怠になることは勿論である。したがって、労働者が特定の業務就労拒否行為を行ったと認められる場合には、たとえそれが年次休暇権行使の外形を有していたとしても、本来の年次休暇権の行使とみることはできないというべきである。

(二) 原告らの本件年休指定は、以下のとおり、ナイト乗務という特定業務の拒否である。

(1) ナイト乗務については、ブルーラインタクシーが認可・導入された当初から、通常の乗務とは勤務時間帯が異なってリズムが乱れる、夜間の繁忙時間帯だけの稼働なので忙しくて疲れやすい、計画配車が嫌である、担当車両が変わるので仕事がやりにくいなどの理由からタクシー乗務員の間で評判が悪く、多数のタクシー乗務員から嫌悪されていた。

(2) 被告らは、ナイト乗務を実施するに際し、三つの労働組合との間で交渉を行い、多数組合である日交労及び同盟日交労組との間では合意に至ったものの、日交労組との間では合意に至らなかった。そこで、被告らが平成二年七月一六日からナイト乗務を実施したところ、日交労組は、同日から同年一二月一五日までの間、年次休暇権の行使によるナイト乗務拒否闘争を展開し、被告らは、これら年次休暇の時季指定のすべてを欠勤として処理した。その後、労使間での諸々のやりとりの後、同年一一月に東京労働基準局から被告らの取扱いが正当である旨の見解が出されるや、日交労組は、同年一二月一三日の中央委員会において同月一五日をもってナイト乗務拒否闘争を中止する旨を決定した。しかし、右決定後も、日交労組は、ナイト乗務の指定日に対し年次休暇の申請を行うことは「労基法上認められた権利の行使として自由に行って下さい。」との教宣を行い、原告らは、年次休暇権を行使してナイト乗務を回避し続けたのであり、原告らの本件年休指定がナイト乗務という特定業務への就労拒否を目的とするものであることは明らかである。

(三) 自白の撤回に対する反論

原告らは、被告らが本件口頭弁論において、原告らが本件年休指定を行った事実を認める旨の陳述をしたことにより、自白が成立している旨主張する。しかしながら、右陳述は、休暇届の提出等、年次休暇の時季指定という社会的に存在した事実を認めたにすぎず、その有効性まで認めたものではないから、被告らにおいて本件年休指定が年次休暇権の行使とはいえないと主張を訂正したことは、そもそも「自白の撤回」に該当しない。また、仮に、被告らが時季指定行為の有効性を認めていたとしても、右自白はいわゆる権利自白であるから、被告らは自白を撤回することができる。

(原告らの主張)

(一) 被告らが引用する各最高裁判決によって確立された理論は、外形上は労働者の時季指定行為があり、使用者が時季変更権を行使していなかった場合でも、当該労働者が年次休暇当日に行われた当該事業場における争議行為に参加したときは、一定の場合に年次休暇の成立が否定されるというものであり、その理由は、このような場合には、もともと使用者が当該事業場における事業の正常な運営を確保することを不能にするので、時季変更権行使の前提を欠くからということにあり、被告らの主張するような「外形的に年次休暇の時季指定とみられる行為があったとしても、その実質がそのように評価できない場合には、その実体に応じて法律効果を論ずべきである。」との一般論はとっていない。

そもそも、年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である(前記林野庁白石営林署事件判決参照)。そして、このような労働者の権利と当該事業場における正常な事業の運営をはかるという使用者の利益とを調整するのが労基法三九条四項ただし書の時季変更権にほかならない。したがって、労働者による年次休暇の時季指定が被告らの主張する「特定の業務を拒否する行為を行ったと認められる場合」に該当したとしても、それが当該労働者の所属する事業場における事業の正常な運営を妨げるものでない限りは、年次休暇の成立には何ら影響することはない。

(二) 原告らの本件年休指定は、日交労組の争議行為によるものではないし、ナイト乗務を拒否するためになされたものでもなく、あくまで原告らの個人的事情に基づくものである。

(三) 自白の撤回について

被告らは、本件口頭弁論において、原告らが本件年休指定を行った事実を認める旨の陳述をしたことにより自白が成立しているから、被告らが右自白を撤回することは許されない。

2  本件年休指定は権利の濫用か。

(被告らの主張)

原告らの本件年休指定は、勤務編成表作成後になされていて、就業規則四六条一項に違反し、かつ、右1の(二)で述べたとおり、ナイト乗務という被告らの事業を運営するための正常な勤務態勢を阻害する目的、態様でなされたものであり、企業秩序を著しく乱し、従業員のモラルを低下させるものである。被告らは、本件年休指定による原告らの就労拒否を欠勤として処理したが、これは企業の業績向上という観点から行ったものではなく、深夜の交通手段の拡充という企業に課せられた社会的責任の遂行及び労使間の重要テーマである労働時間短縮の達成上やむを得ない措置として決定したのであり、ナイト乗務という特定業務への就労を拒否する者に対し、有給でもって遇することが不合理であることは明らかである。

これらの事情を総合すれば、原告らの本件年休指定は、本来の年次休暇権の趣旨に反し、権利の濫用であって無効というべきである。

(原告らの主張)

被告らは、本件の紛争が起こるまでの間、原告らを含むタクシー乗務員が勤務編成表発表後に休暇届の提出(年次休暇の時季指定)をした際、異議を述べることなく年次休暇を認めていた。また、原告らの本件年休指定は、日交労組の争議行為によるものではないし、ナイト乗務を拒否するためになされたものでもなく、あくまで原告らの個人的事情に基づくものである。

したがって、原告らの本件年休指定は、就業規則に違反するものではなく、正当な権利の行使であるから、権利の濫用にあたるということはない。

第三  争点に対する判断

一  事実の経過

1  前記前提事実に加え、甲第七ないし第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二、第一三号証、乙第二号証、第三号証の一ないし八、第四号証の二ないし六、第五号証の一ないし八、第六号証、第七号証の一ないし三、第八ないし第一三号証、第一五、第一六号証の各一、二、第一七号証、第一八号証の一、二、第二〇ないし第二四号証、第二八ないし第三四号証、証人吉田征弘、同河野道有及び同元山光男の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件年休指定とこれに至る経過について次の事実が認められる。

(一) ナイト乗務の導入に至る経緯

(1) タクシー乗務員の勤務制度

被告らは、タクシー乗務員について、車両の稼働時間帯による勤務シフト制を採用しており、勤務時間は拘束時間一九時間、うち所定労働時間一六時間、休憩三時間とされ、本件年休指定の当時は、一台の車両を二名のタクシー乗務員が担当する「二・三勤務」(各タクシー乗務員は、二回乗車して一回公休、三回乗車して一回公休)態勢を採っていた。

(2) ブルーラインタクシーの導入

昭和六〇年ころから始まったいわゆるバブル景気により、深夜のタクシー不足が常態化し、社会問題化するようになった。昭和六二年、運輸当局は、ブルーラインタクシーと呼ばれる夜間専用車両を導入し、特に繁華街等の長蛇の列のできる乗り場での輸送力の増強を図ることにした。ブルーラインタクシーは、導入当初、繁忙期(主として金曜日及び祝前日)のみの稼働とされたが、昭和六三年、原則として月曜日から金曜日までの午後七時から翌朝午前四時までの稼働と変更され、また、一般車両と違い、計画配車(一乗務につき二回以上(金曜日は三回以上)、繁華街等にある指定されたタクシー乗り場へ回送すること)が義務づけられていた。

被告らは、運輸当局の指導の下、昭和六二年一一月から順次ブルーラインタクシーの認可を受け、平成元年一一月時点では、被告日本交通が四一台、被告第十日本交通が一〇台の認可を受けていた。

(3) 暫定車両の導入

ブルーラインタクシーの導入は、それなりの成果を挙げたが、依然として深夜のタクシー不足は深刻な問題であった。そこで、運輸当局や業界団体は、当時深刻だった人手不足の状況下で、六年間据え置かれていたタクシー運賃の改定による労働条件の向上によってタクシー乗務員を確保して、タクシーを増車することを考えるようになり、運輸当局は、平成二年五月一八日、業界団体である財団法人東京乗用旅客自動車協会に対し、東京都内等におけるタクシー需要への対応を図るため、同年七月実施に向け、タクシー輸送力の増強を行ってほしいこと、増車内容は、運行日及び運行時間として、①無限定(一般車両)、②運行日を月曜日から金曜日まで(祝日を除く)、運行時間を午後七時から翌日午前四時まで(暫定車両)の二種類、計画配車時間として午後一一時三〇分から翌日午前二時まで(金曜日、祝前日及び一二月は午後一一時から翌日午前二時三〇分まで)、計画配車回数として指定乗り場に二回以上(金曜日、祝前日及び一二月は三回以上)とすることなどを内容とする行政指導を行うとともに、タクシー運賃を五月二六日から9.6パーセント値上げすることを認可した。被告らを含むタクシー各社は、同月下旬、一斉にタクシーの増車認可申請を行ったが、運輸当局の指導や増車認可に必要な乗務員数が一般車両は一台につき2.5名であるのに対して、暫定車両は一名で足りるとされていたことなどから、タクシー業界全体として暫定車両を中心に増車認可申請がなされ、その結果、同年六月一一日、全体として一八〇三台(暫定車両が一五一一台、無限定車が二九二台)が認可された。被告らは、同年五月二九日、暫定車両のみの増車認可申請を行い、合わせて一二五台(被告日本交通が九一台、被告第十日本交通が三四台)の認可を受けた。

(4) ナイト乗務の導入

被告らは、夜間専用車両であるブルーラインタクシー導入当初は、その台数が少なかったことから、希望者を募って同車両を稼働させていた。しかし、夜間専用車両は、タクシー乗務員の間では、通常の乗務とは勤務時間帯が異なってリズムが乱れる、夜間の繁忙時間帯だけの稼働なので忙しくて疲れやすい、計画配車が嫌である、担当車両が変わるので仕事がやりにくい、歩合給が少なくなるなどの理由から評判が悪く、多数のタクシー乗務員から嫌悪されていた。そのため、前記暫定車両の認可に伴い、これら夜間専用車両が被告らを通じて合計一七六台(被告日本交通が一三二台、被告第十日本交通が四四台)になると、従前の希望者を募る方法では、同車両全部を稼働させることは非常に困難な状況であった。そこで、被告らは、夜間専用車両一七六台の全面稼働と労働時間の短縮による労働条件の改善という観点から、タクシー乗務員全員を対象に一か月に一三回乗務する月のうち一乗務をナイト乗務として夜間専用車両に乗務するというナイト乗務構想を採用することとし、平成二年六月二二日以降、三つの労働組合との間でナイト乗務の実施に向けての交渉に入り、間もなく日交労及び同盟日交労組との間ではナイト乗務導入の合意に至った。これに対し、日交労組は、ナイト乗務は賃下げ時短であって、従前の被告らとの協定に反するなどと主張して反対したため、合意には至らなかった。被告らは、認可された暫定車両の稼働開始時期が同年七月下旬とされていたことから、同月一三日、日交労組に対し、同月一六日からタクシー乗務員全員を対象にナイト乗務を実施する旨を通告し、また、タクシー乗務員に対しても、同日からナイト乗務を実施する旨告知した。

(二) ナイト乗務に対する日交労組の闘争

(1) ナイト乗務の指定

被告らは、就業規則に基づき、タクシー乗務員の当月一六日から翌月一五日までの勤務編成表(出番表ともいう。)を通常その一週間ないし一〇日前ころに各営業所に掲示するなどして告知しており、ナイト乗務指定日については、右勤務編成表に掲示するなどの方法でタクシー乗務員に告知していた。もっとも、タクシー乗務員は、「二・三勤務」態勢の下では勤務編成表の発表前であっても乗務日や公休日がいつになるかを予測することが可能であったのに対し、ナイト乗務指定日は、勤務編成表作成直前に個別に通知されるか又は勤務編成表の発表によってしか知り得なかった。

(2) ナイト乗務実施に対する日交労組の対応

日交労組は、平成二年七月一四日、被告らとの間の賃下げなしの時短実施の協定違反を理由として、ナイト乗務を拒否することを決定し、同月一六日、被告らに対し、同日以降ナイト乗務指定日に合わせた休暇闘争を行う旨通告した。そして、日交労組は、運輸省関東運輸局や所轄労働基準監督署に対する陳情、各営業所周辺でのビラ配り、シュプレヒコールなどの情宣活動等を行った。

これに対し、被告らは、各営業所に指示してナイト乗務指定日における年次休暇の申請状況を把握し、日交労組の休暇闘争と認められるものは実質的にストライキであるとしてすべて欠勤処理をし、同年八月分以降に支給される賃金から欠勤分をカットし、また、関東運輸局や所轄労働基準監督署にも事情説明を行うなどした。そして、東京労働基準局は、同年一一月二一日、日交労組の休暇闘争に対する被告らの賃金カットの取扱いは正当である旨の見解を示した。

(3) 休暇闘争の中止

日交労組は、東京労働基準局の見解が示された以降も休暇闘争を継続し、カットされた賃金は組合が補填するなどの措置を講じてきた。しかし、東京労働基準局の見解の表明や補填財源の限界、年末の稼ぎ時を控えての組合員の声などの理由から、日交労組は、同年一二月一三日、中央委員会において、同月一五日をもって休暇闘争は中止するが、ナイト乗務の反対と時短分の賃金補償を求める闘いは継続していく旨を決定し、同月一五日付けの組合機関紙「やくしん」に、休暇闘争の経緯や右の中央委員会における決定内容のほか、「休暇戦術は中止しましたが、個人の有給休暇使用は労基法で認められた権利として自由に行使して下さい。」と掲載した。

(三) 休暇闘争中止後の被告らの対応

被告らは、日交労組が平成二年一二月一三日に休暇闘争の中止を決定したにもかかわらず、同組合所属のタクシー乗務員がなおナイト乗務拒否のために年次休暇を申請する趣旨の言動をしているとの情報や組合機関紙「やくしん」の前記記載内容などから、日交労組所属のタクシー乗務員が同月一六日以降ナイト乗務に応じるか否か疑いを持っていた。そこで、被告らの本社人事部は、ナイト乗務を拒否する目的でする休暇申請に対応するため、①勤務編成表作成後のナイト乗務日の休暇申請については、必ず申請者に対して休暇取得の理由を尋ねること、②申請者の理由が相当であり、かつ、勤務編成表作成前に申請できなかったことに一応の理由がある場合には、就業規則四六条一項ただし書の年次休暇の事後申請として例外的に休暇を認めること、③右②以外に休暇の理由を述べない者や明らかにナイト乗務を拒否する態度を示した者は欠勤として処理すること、この明らかにナイト乗務を拒否する態度か否かは、申請者が通常乗務を予定されている他の勤務日に当該ナイト乗務の分を振り替えることに応じるか否かによって決するなどの方針を決定した。なお、被告らは、日交労組の休暇闘争が開始される前は、勤務編成表作成後の休暇申請であっても、休暇の理由や勤務編成表作成前に休暇を申請できなかった理由を尋ねたりせず、申請どおりの休暇を認めることが多かった。

(四) 平成二年一二月一六日以降の年次休暇の申請状況

平成二年一二月一六日から平成三年三月一五日までの間、ナイト乗務指定日に年次休暇を申請した者は、同年一月度(前月一六日から当月一五日まで、以下同じ。)が六六名、二月度が一六名、三月度が一〇名の延べ九四名であり、このうち九二名が原告らを含む日交労組所属のタクシー乗務員であった。被告らは、これらの取扱いについて協議した結果、ナイト乗務指定日の休暇取得に正当な理由があると認められた日交労組に所属しない二名及び日交労組所属の九二名のうちナイト乗務の拒否とは断定できないと判断された四三名については年次休暇を認めたが、原告らを含むその余の四九名については、ナイト乗務の拒否と認めて欠勤処理をした。

(五) タクシー乗務員の動向

日交労組が休暇闘争を行って以降、被告らのタクシー乗務員の間に、日交労組に加入すれば嫌なナイト乗務に就かずに済むとの声が聞かれるようになり、現に他の労働組合から日交労組に加入した者もいた。また、日交労組以外の労働組合の幹部からは、タクシー乗務員の間には、もともとナイト乗務を嫌悪する気分があるうえ、通常乗務日に年次休暇をとると二日と計算されるのに対し、ナイト乗務指定日だと一日で済むことから、ナイト乗務指定日に休暇をとった方が得であるという声が出ており、こうした事態がこれ以上続くようなら、どうなるか分からないとの懸念が表明されたりした。

(六) 夜間専用車両の稼働状況

被告らは、日交労組の休暇闘争により、平成二年七月一六日から同年一二月一五日までの間、夜間専用車両、一般車両を含めて一二六七台の休車を余儀なくされた。特に、被告日本交通の目白営業所では、タクシー乗務員の全員が日交労組所属の組合員であるため、四台ある夜間専用車両を一台も稼働させることができなかった。他方、日交労組の休暇闘争の中止後、平成二年一二月一六日から平成三年三月一五日までの間は、被告らが夜間専用車両を優先的に稼働させるという方針をとった結果、原告らの本件年休指定をはじめナイト乗務指定日の休暇申請によって夜間専用車両が稼働できないという事態には至らなかったものの、一般車両に相応の休車が生じた。

(七) ナイト乗務の廃止

被告らは、時短による週四四時間の労働時間に移行するため、平成三年三月一六日以降、従前の「二・三勤務」から「二・二W・二・三勤務」(二回乗車して一回公休、二回乗車して二回連続して公休、二回乗務して一回公休、三回乗車して一回公休)に変更し、これに伴い、タクシー乗務員の全員を対象としたナイト乗務を廃止した。

2  なお、被告らが、平成四年七月一四日の第二回口頭弁論期日において、「原告らが、訴状添付の別表1「指定日」欄記載の勤務割当日について、年次有給休暇とする旨の時季指定をしたことは認める。」と陳述し、その後の平成八年六月二五日の第二二回口頭弁論期日において、右主張を「原告らが、訴状添付の別表1「指定日」欄記載の勤務割当日について、休暇届を提出する等、時季指定の形態を有する行為を行ったことは認めるが、これら行為が時季指定行為ないし年休権の行使に相当するとの点は否認ないし争う。」と訂正したことは、当裁判所に顕著である。しかし、被告らは、本件訴訟において右訂正の前後を通じ一貫して、原告らが訴状添付の別表1「指定日」欄記載の勤務割当日について、休暇届を提出するなどの時季指定行為を行った事実自体は認めたうえで、右指定行為の法的意味やその効力を争っているものであり、右訂正はその趣旨を明確にしたにすぎず、自白の撤回には該当しない。

二  争点1(本件年休指定が年次休暇の時季指定といえるか)について

1 労働者がその所属する事業場における業務の正常な運営の阻害を目的として、年次休暇権を行使するとして職場を離脱する態様のいわゆる一斉休暇闘争は、本来の年次休暇権の行使ということはできず、年次休暇に名を藉りた同盟罷業というべきであり、当該時季指定日に年次休暇関係が成立する余地はない(最高裁第二小法廷昭和四八年三月二日判決・民集二七巻二号一九一頁、最高裁第二小法廷同日判決・民集二七巻二号二一〇頁)。また、休暇闘争の態様が当該事業場の労働者の一部のみが参加する、割休闘争と称されるものの場合であっても、それが同様に当該事業場における業務の正常な運営の阻害を目的とするものであれば、同盟罷業となりうるのである(最高裁第一小法廷昭和六一年一二月一八日判決。判例時報一二二〇号一三六頁)。さらには、労働者が請求していた年次休暇の時季指定日に、たまたまその所属する事業場において予定を繰り上げてストライキが実施されることになり、当該労働者が、右ストライキに参加しその事業場の業務の正常な運営を阻害する目的をもって、右請求を維持して職場を離脱した場合には、右請求に係る時季指定日に年次休暇は成立しない(最高裁第三小法廷平成三年一一月一九日判決・民集四五巻八号一二三六頁)。

2 被告らは、これらの最高裁判決を指摘して、年次休暇の時季指定の外形を有する行為であっても、その実質に着目し、労働者が年次休暇を利用して特定の業務への就労を拒否したと認められる場合には、本来の年次休暇の時季指定の行使自体が否定されるべきである旨主張する。しかし、右各判例は、当該事業場における業務の正常な運営の阻害を目的として、年次休暇権を行使する態様のいわゆる一斉休暇闘争や割休闘争の場合、さらには、労働者が年次休暇を利用してその所属する事業場における業務の正常な運営の阻害を目的として争議行為に参加した場合には、本来の年次休暇権の行使とはいえないから、当該時季指定日に年次休暇は成立しない旨判示したものである。ところで、本件においては、先に認定したとおり、原告らが所属する日交労組はナイト乗務に反対の方針をとり、平成二年七月一六日から同年一二月一五日までの間、ナイト乗務指定日に休暇闘争を実施していたこと、また、右休暇闘争の中止を決定した旨掲載した同組合発行の一二月一五日付け機関紙には、「休暇戦術は中止しましたが、個人の有給休暇使用は労基法で認められた権利として自由に行使して下さい。」との記載があったこと、翌一六日以降も、ナイト乗務指定日に年次休暇の時季指定を行ったタクシー乗務員のうち大部分が日交労組の組合員であったことが認められるのである。しかしながら、原告らの本件年休指定の当時は、日交労組はナイト乗務指定日の休暇闘争を中止する旨決定していたことや、右中止決定後は、組合員の多くがナイト乗務指定日に年次休暇の時季指定を行ったわけではなく、本件年休指定が日交労組の指示に基づくものと認めるに足りる証拠はないことからすると、本件年休指定は日交労組による休暇闘争であるとは認められないし、原告らが、それぞれ所属する各営業所における業務の正常な運営の阻害を目的として、本件年休指定を行ったとまでは認めがたい。したがって、前記各最高裁判決に照らしても、原告らの本件年休指定が本来の年次休暇権の行使とはいえないとする被告らの主張は採用できない。

三  争点2(本件年休指定は権利の濫用か)について

1 先に認定した事実によれば、被告らが実施したナイト乗務は、深夜におけるタクシー不足の解消や労働時間の短縮という社会的、政策的要請に基づくものであり、認可された夜間専用車両をすべて稼働させるため、ナイト乗務を実施する必要性は極めて高かったということができ、加えて、ナイト乗務は、タクシー乗務員全員を対象に等しく夜間の日勤勤務に就くものであり、しかも、被告らはナイト乗務を導入するに際し、その従業員らで組織する三つの労働組合との間で交渉を行い、多数組合である日交労と同盟日交労組との間では合意に至った上でナイト乗務を実施したものである。こうして、多くのタクシー乗務員が通常の乗務と勤務時間帯が異なることや計画配車の負担等の理由により、夜間専用車両による夜間の日勤勤務を嫌悪しつつも、被告らが作成した勤務編成表に従って平等にナイト乗務に従事していた状況において、タクシー乗務員の年次休暇権の行使によるナイト乗務の就労拒否を認めたならば、社内に嫌な仕事に対しては年次休暇権を行使してこれを回避しようとする風潮を生み出し、他のタクシー乗務員に対して不公平感を生じさせ、職場秩序が保てず、ひいてはナイト乗務という業務の正常な運営に支障を来すことは明白であり、また、業務の就労拒否者に対して有給で遇することにもなり、明らかに不合理である。そして、そもそも労働者が特定の業務への嫌悪から右業務の就労を拒否するために年次休暇権を行使することは、本来の年次休暇制度の趣旨に反することからすれば、このような年次休暇の時季指定は、年次休暇権行使の濫用として許されないというべきである。

もとより、年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であると解するが、権利の行使といえども濫用にわたることは許されないのであって、年次休暇権の行使が権利の濫用と目されるときは、無効というほかない。

2  そこで、原告らの本件年休指定が、ナイト乗務を拒否する目的でなされたものであるかどうかについて個別に判断する。

(一) 甲第二〇ないし第三八号証、乙第一八号証の一、二、第二二号証、第二八ないし第三三号証、証人吉田征弘及び証人河野道有の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告吉近正之(原告番号一。以下「原告吉近」という。)

原告吉近は、日交労組千住支部の青年部の役員を務めており、同組合の休暇闘争期間中はナイト乗務には応じないとして被告らを再三にわたり抗議、非難していた。

被告日本交通は原告吉近に対し、平成二年一二月八日掲示の勤務編成表で同月二七日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告吉近は、同月一五日午前七時ころ、千住第三営業所の山下次長に対し、同月二七日を休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した。そこで、山下次長は原告吉近に対し、同日はナイト乗務指定日であり、勤務編成表作成後なのでナイト乗務拒否の休暇は認められない旨述べると、原告吉近は「分かっているよ。それでいいよ。」と述べた。その後、原告吉近は、同月二七日までの間、山下次長に対し、「なぜナイト乗務に乗らなくてはならないのか。ナイトに乗らなければいけないという理由は何だ。」と質問し、山下次長が「ナイト乗務は全乗務員にやってもらうということを会社として決めているのだから、誰が乗る、誰が乗らないということはあり得ない。組合だって闘争をやめてナイト乗務に同意している以上、あなたとしても支部役員として率先して乗務するべきではないのか。」と返答すると、原告吉近は「いや。俺は絶対ナイトはやらない。意地でもやらない。」と述べた。

(2) 原告五十嵐政美(同二。以下「原告五十嵐」という。)

被告日本交通は原告五十嵐に対し、平成二年一二月八日掲示の勤務編成表で同月二八日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告五十嵐は、同月二五日、山下次長に対し、同月二八日を休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した。山下次長は原告五十嵐に対し、ナイト乗務日の発表後に休暇を申請しても認められない旨述べると、原告五十嵐は「前と同じですよ。」と述べた。山下次長が「何だ。もう休暇闘争は終わったじゃないか。これでは欠勤だぞ。」と述べると、原告五十嵐は「いや。前と同じです。ナイトはやりません。」と繰り返し述べるのみであった。

(3) 原告森英希(同三。以下「原告森」という。)

被告日本交通は原告森に対し、平成二年一二月三日、通知書で同月一七日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告森は、同月一〇日、山下次長に対し、同月一七日を休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した。山下次長が原告森に対し、休暇闘争中の休暇申請なので欠勤になる旨述べると、原告森は、無言のままその場を立ち去った。その後、日交労組が休暇闘争の中止を決定したことから、山下次長は、同月一五日、原告森に対し、「もうストライキは終わったんだから今後のナイトは乗るんだろう。」と尋ねると、原告森は「いや。組合では乗りたくなければ乗らなくてもいいと言っている。」と述べた。

(4) 原告小川章夫(同四。以下「原告小川」という。)

被告日本交通は原告小川に対し、平成二年一二月八日掲示の勤務編成表で平成三年一月九日をナイト乗務日に指定し、平成二年一二月二四日にも通知書でその旨を通知した。ところが、原告小川は、同月二五日、山下次長に対し、平成三年一月九日を休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した。山下次長が原告小川に対し、「またナイト乗務を休むのか。ナイト乗務の拒否は欠勤になるぞ。」と述べると、原告小川は「分かってます。欠勤でいいです。」と述べた。

(5) 原告清水満(同五。以下「原告清水」という。)

原告清水は、日交労組目白支部の法対部長を務めていた。

被告日本交通は原告清水に対し、平成二年一二月一三日掲示の勤務編成表で平成三年一月九日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告清水は、平成二年一二月一五日午後零時五分ころ、目白営業所の上森次長に対し、平成三年一月九日を休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した。上森次長は原告清水に対し、勤務編成表発表後なのに理由欄白紙では休暇届として認めることができないし、その日はナイト乗務なのでできれば休まないでほしい旨述べたところ、原告清水は「今回だけは休暇にしてもらいたい。次は乗るから。」と述べた。上森次長が原告清水に対し、休暇理由を尋ねたところ、原告清水は、孫のお宮参りに行くためであると返答した。そこで、被告日本交通は、原告清水の右休暇申請はナイト乗務を拒否する目的ではないと判断して、同日の休暇を認めた。その後、被告日本交通は原告清水に対し、平成三年一月九日掲示の勤務編成表で同月二九日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告清水は、同月一三日、目白営業所の内田次長に対し、同月二九日を休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した。内田次長は原告清水に対し、「先月の時はナイト乗務はやると言っていたのに約束が違う。一体どういうことなんですか。」と尋ねたところ、原告清水は「孫のお宮参りに行く。」と返答した。内田次長が「この前行った筈ではないか。」と問いただすと、原告清水は、行かなかった旨の返答をした。内田次長は、火曜日にお宮参りに行くのはおかしい、お宮参りなら日中で済むからナイト乗務に好都合ではないかと述べたが、原告清水は明確な返答をしなかった。内田次長は、同月一七日、原告清水に対し、約束どおりナイト乗務に就くよう説得するとともに、「それではその日は休んでもよいけれども、他の日に必ずナイト乗務をやってくれるか。」と尋ねたところ、原告清水は「休暇をどこで取ろうと勝手じゃないか。」と返答した。

(6) 原告丹羽力也(同六。以下「原告丹羽」という。)

被告日本交通は原告丹羽に対し、平成二年一二月一三日掲示の勤務編成表で同月二〇日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告丹羽は、同月一五日、上森次長に対し、同月二〇日及び平成三年一月一日から同月四日までを休暇とする押印だけした休暇届を提出した。上森次長及びその場に居合わせた内田次長は原告丹羽に対し、「氏名も日付も休暇申請日も書いてないじゃないか。一体どういうことだ。」と尋ねると、原告丹羽は「ナイト乗務に休みたいので宜しく。」と返答した。内田次長が「こんなものでは休暇は認められないよ。」と述べても、原告丹羽は「ナイト乗務に休暇を取れば一日の休暇で三日休める。利用しない手はないから休む。」と述べた。

(7) 原告北川美好(同七。以下「原告北川」という。)

原告北川は、平成三年一月度の勤務編成表発表前、既に帰省を理由に同月一日から七日までの年次休暇の申請をしており、内田次長の休暇期間の短縮の要請に対して、「それでは考えておく。」と返答していた。被告日本交通は原告北川に対し、平成二年一二月一三日掲示の勤務編成表で平成三年一月九日をナイト乗務日に指定したところ、原告北川は、平成二年一二月一七日、内田次長に対して平成三年一月九日のナイト乗務指定日も含めて同月一〇日まで休暇を延長する旨の休暇届を提出した。内田次長は原告北川に対し、ナイト乗務を含む形で休暇が増えた理由を問いただすと、原告北川は「帰省先が遠いから帰って来れない。」と返答した。内田次長は「初めは七日までの休暇を申請しているのだから、七日に帰って来れない筈はないのではないか。」と説得し、さらに「どうしてもその日が駄目だというならその日は仕方がないが、他の日にナイト乗務をしてもらう。」と述べたところ、原告北川は「それはできない。ナイト乗務はしない。休暇を認めないなら労基署へ行く。」と述べた。

(8) 原告広瀬東洋雄(同八。以下「原告広瀬」という。)

被告日本交通は原告広瀬に対し、平成三年二月八日掲示の勤務編成表で同年三月一二日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告広瀬は、同年二月二〇日、内田次長に対し、囲碁部の旅行を理由に同年三月一二日を休暇とする旨の申請をした。内田次長は囲碁部の尾泉部長に問い合わせたところ、囲碁部の旅行は一か月以上前から決まっており、原告広瀬は参加申し込みをしていないとのことであった。そこで、内田次長は原告広瀬に対し、「囲碁部の旅行は一か月以上前から決まっていたのに、なぜ出番表掲示の前に連絡しなかったのか。旅行の申し込みもないそうだがどういうことか。」と問いただしたところ、原告広瀬は「いや、行くことになった。」と返答した。なお、原告広瀬は、同月一月一一日のナイト乗務指定日には、ナイト乗務に応じている。

(9) 原告橋場武(同九。以下「原告橋場」という。)

被告日本交通は原告橋場に対し、平成二年一二月八日掲示の勤務編成表で平成三年一月八日をナイト乗務日に指定した。ところが、日交労組蒲田支部の平岩支部長は平成二年一二日二八日、蒲田営業所の管次長に対し、「橋場が休むから。」と述べて平成三年一月八日を休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した、そこで、同営業所の中村次長は、平成二年一二月三〇日、原告橋場に対して事情を尋ねたところ、原告橋場は「一月八日には個人的な用事があるから休む。」と繰り返し述べた。中村次長が「その日にどうしても休まなくてはならないのであれば、休暇は認めるが、その場合は別の日にナイト乗務をすると約束してほしい。」と申し入れたところ、原告橋場は「ナイト乗務なんかやれるか。冗談じゃない。」と怒鳴り、ポケットから同原告宛てのナイト乗務指定の通知書を取り出して中村次長の目の前で引きちぎった。

(10) 原告佐々木亨(同一〇。以下「原告佐々木」という。)

原告佐々木は、日交労組蒲田支部の副支部長を務めていた。

被告日本交通は原告佐々木に対し、平成二年一二月八日掲示の勤務編成表で平成三年一月八日をナイト乗務日に指定した。原告佐々木は、平成二年一二月二〇日、管次長に対し、平成三年一月八日は組合の行事があるので同月一四日の公休を同月八日に振り替えてほしい旨を申し入れ、その際、同月一四日にはナイト乗務をすることを確約した。そのため、被告日本交通は原告佐々木の申し入れを了承し、同人のナイト乗務日を同月一四日に変更した。ところが、原告佐々木は、その一四日午前中、管次長に対し、同日の休暇届を提出した。管次長及び中村次長は原告佐々木に対し、同原告の希望で振り替えに応じたにもかかわらず約束を破ることは許されないこと、当日に休暇届を提出することは絶対に許されないから乗務に応じるよう翻意を促した。これに対し、原告佐々木は、「俺はナイトをやるなんて言った覚えはない。」と述べ、休暇申請の具体的な理由を何ら説明しなかった。中村次長は原告佐々木に対し、欠勤として処理する旨伝えたが、原告佐々木は無言のままその場を立ち去った。

(11) 原告滝沢時男(同一一。以下「原告滝沢」という。)

被告日本交通は、原告滝沢のナイト乗務日を平成三年一月九日に指定することにしていたところ、原告滝沢から勤務編成表発表前日である平成二年一二月七日に休暇の申し出があったことから、被告日本交通は、右休暇を了承した。被告日本交通は原告滝沢に対し、平成三年一月八日掲示の勤務編成表で同月二八日をナイト乗務に指定した。ところが、原告滝沢は、同月一三日、管次長に対し、口頭で同月二八日に休暇を取りたい旨を申し入れてきた。管次長が理由を尋ねると、原告滝沢は「ナイト乗務を休めば一日の休暇で三日休めるじゃないですか。だから今回も休ませてもらいます。」と返答した。そこで、管次長は原告滝沢に対し、右のような理由での休暇申請は認められない旨伝えたところ、原告滝沢は「そうですか。」と言って帰っていった。ところが、その後、日交労組蒲田支部の平岩支部長は、同月一五日夕刻ころ、管次長に対し、「滝沢の休暇届だ。」と述べて、理由欄に家事都合と記載し、同月二八日を休暇とする休暇届を提出した。管次長が休暇届は本人が持って来なければ受け付けられないと述べて受け取りを拒否したところ、平岩支部長は「渡したからな。」と述べて管次長の話を全く聞き入れなかった。

(12) 原告秋山幸雄(同一二。以下「原告秋山」という。)

原告秋山は、日交労組蒲田支部の教宣部長を務めていた。

被告日本交通は原告秋山に対し、平成三年一月八日掲示の勤務編成表で同月二八日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告秋山は同月一五日午前中、管次長に対し、「一月二八日は休暇を取る。」と述べて同日を休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した。管次長は原告秋山に対し、勤務編成表作成後の休暇届は認められないので当初のとおり乗務するよう要請したが、原告秋山は休暇の具体的理由を明らかにしようとせず、どうしても休むと言い続けた。そこで、管次長は原告秋山に対し、別の日にナイト乗務をするという約束をするならば一月二八日を休暇扱いとすることは可能である旨を述べて原告秋山の考えをただしたが、原告秋山は何ら回答することなく黙ってその場を立ち去った。

(13) 原告小早川壮伺(同一三。以下「原告小早川」という。)

原告小早川は、日交労組目黒支部の副支部長を務めていた。

被告日本交通は原告小早川に対し、平成二年一二月八日掲示の勤務編成表で平成三年一月一〇日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告小早川は、平成二年一二月二五日、目黒営業所の中尾所長に対し、日交労組が独自に作成した休暇届用紙に同組合の旗開きのために平成三年一月一〇日を休暇とすることを記載した休暇届を提出した。中尾所長は原告小早川に対し、「組合の旗開きなら昼で終わるんだから、ナイト乗務に支障はないだろう。乗務したらどうか。」と説得を試みたところ、原告小早川は「酒を飲むので休む。」と返答した。

(14) 原告浅利豪(同一四。以下「原告浅利」という。)

被告日本交通は原告浅利に対し、平成二年一二月八日掲示の勤務編成表で同月一七日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告浅利は、同月一四日、北村次長に対し、同月一七日を休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した。そこで、北村次長が原告浅利に対し、「出番表を見てから出してきても駄目だぞ。ナイト乗務の拒否と受けるぞ。」と述べると、原告浅利は「ナイトなんかやっても仕様もない。どうせ乗っても足切りにも行かない。」と返答した。

(15) 原告皆川進(同一五。以下「原告皆川」という。)

被告日本交通は原告皆川に対し、平成二年一二月八日掲示の勤務編成表で同月一九日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告皆川は、同月一四日、北村次長に対し、同月一九日を休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した。北村次長は原告皆川に対し、「出番表を見てナイト乗務の日を確かめてから休暇を申請しても駄目だよ。」と述べてナイト乗務の拒否である限り欠勤になる旨を告げ、何か特別の理由があるかどうかを尋ねた。しかし、原告皆川は「乗りたくないから。」と返答するのみで、北村次長が「それでは理由にならないよ。乗らないと欠勤になるよ。」と述べても、何の反論もしなかった。

(16) 原告髙須貫治(同一六。以下「原告髙須」という。)

原告髙須は、もともと日交労に所属する組合員であったが、日交労組が平成二年七月一六日から休暇闘争を開始した直後、同組合に加入した。

被告日本交通は原告髙須に対し、平成二年一二月八日掲示の勤務編成表で同月二五日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告髙須は、同月二〇日、北村次長に対し、同月二五日及び二六日を休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した、北村次長は原告髙須に対し、「出番表を見てからナイト乗務日に休暇を申請しても駄目だよ。ナイト乗務は全員でやってもらうことになっているんだからきちんと乗務して下さい。」と説得を試みたが、原告髙須は無言のままその場を立ち去ろうとした。そこで、北村次長が原告髙須に対し、「ナイト乗務を拒否するなら欠勤になるよ。」と述べても、原告髙須は何らの応答もしなかった。

(17) 原告大澤正春(同一七。以下「原告大澤」という。)

被告日本交通は原告大澤に対し、平成二年一二月八日掲示の勤務編成表で同月一九日をナイト乗務日に指定したところ、同月一五日、原告大澤からナイト乗務日に休暇を取りたいこと、次回はナイト乗務に乗るとの申し入れがあったことから、被告日本交通は原告大澤の申し入れを了承して同月一九日の休暇を認めた。その後、被告日本交通は原告大澤に対し、平成三年一月二九日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告大澤は、同月二〇日午前一〇時ころ、横田副所長に対し、同月二九日を休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した。横田副所長は原告大澤に対し、「出番表を見てナイト乗務の日が分かってから休暇申請を出しても駄目だぞ。ナイト乗務だからといって休むことは許されない。欠勤だぞ。」と述べると、原告大澤は「分かっているよ。ナイト乗務の件は明日組合の方で交渉を行うと言っているから。」と返答した。

(18) 原告内田正(同一八。以下「原告内田」という。)

原告内田は、日交労組千住支部の青年部長を務めており、同組合の休暇闘争に際しては、同支部の先頭に立ってナイト乗務に反対する姿勢をとっていた。

被告第十日本交通は原告内田に対し、平成二年一二月八日掲示の勤務編成表で平成三年一月七日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告内田は、平成二年一二月二三日午後五時ころ、千住第四営業所の飛騨次長に対し、平成三年一月七日から同月一〇日までを休暇とする理由欄白紙の休暇届を提出した。飛騨次長は原告内田に対し、勤務編成表作成後の休暇の申請であって原則として認められないこと、同月七日はナイト乗務日であり皆で分担して乗務しなければならないから協力してほしい旨を申し入れた。これに対し、原告内田は「半公休を利用した方が効率的だからそういう申し入れには応じられない。」と返答した。同営業所の北澤次長は、平成二年一二月二七日、原告内田と休暇の件で話し合いをしたところ、原告内田は平成三年一月七日から同月一〇日まで用事があるのでどうしても休みたいと述べながらも、その具体的な説明を一切しなかった。北澤次長は原告内田に対し、なおも説得を試み、「皆で分担を分かち合わなければならないナイト乗務は乗務してほしい。」と申し入れ、さらに「どうしても一月七日のナイト乗務ができないのなら、その日に休暇を取ることは仕方ないけれども、その分ナイトの時期を変更して、他の乗務日にナイト乗務を行ってもらうことを約束してほしい。」と述べた。しかし、原告内田は「いや。ナイト乗務を休めば半公休の利用で済んで効率的だから別の日に変更してナイト乗務をするつもりはない。」と返答した。北澤次長は「正月時期は特別に日勤一勤務をすればナイト乗務一回にカウントされることになっているから、実績づくりに正月日勤をやってみたらどうか。」と述べて正月日勤を勧めたが、原告内田の態度は変わらなかった。そこで、北澤次長は原告内田に対し、ナイト乗務の拒否として欠勤処理する旨を伝えたところ、原告内田は「どうせ本社が決裁することだから。」と述べた。

(19) 原告上沢正律(同一九。以下「原告上沢」という。)

被告第十日本交通は原告上沢に対し、平成二年一二月八日掲示の勤務編成表で平成三年一月八日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告上沢は、平成二年一二月二〇日午後二時ころ、飛騨次長に対し、平成三年一月八日に休暇を取りたい旨を述べて、理由欄白紙の休暇届を提出した。飛騨次長は原告上沢に対し、勤務編成表掲示後の休暇申請であり、就業規則違反であるから休暇は認められない旨伝えたところ、原告上沢はどうしても休暇を取りたいと述べて押し問答になった。そこで、北澤次長が原告上沢に対し、「上沢さん。用事とは何だい。」と尋ねたところ、原告上沢は「町内会の会合があって、俺は会長だから出ないと仕方がないんだ。」と返答した。そこで、北澤次長が「どうしても用事があるのであれば会社としても休暇の取得を考慮するが、その場合は他の日にナイト乗務をやってもらうことになるが、どうか。」と尋ねると、原告上沢は「そんな必要がどこにあるか。」と返答した。

(20) 原告川原武彦(同二〇。以下「原告川原」という。)

被告第十日本交通は原告川原に対し、平成三年二月八日ころ掲示の勤務編成表で同年三月一一日をナイト乗務日に指定した。ところが、原告川原は、同月二日、常盤台第四営業所の木暮次長に対し、同月一一日を休暇とし、理由欄に休養と記載した休暇届を提出した。木暮次長は原告川原に対し、「もう出番表を貼りだしたんだから休暇は受け付けないよ。しかも、ナイト乗務に当たっているじゃないか。」と述べたところ、原告川原は「三月一〇日に組合の動員が予定されている。翌日は疲れるから休む。」と返答した。木暮次長は原告川原に対し、ナイト乗務は全員が分担して乗ることになっている乗務であり、その日にどうしても休まなければならないのなら休暇を取ってもよいが、その場合には別の日にナイト乗務をしてもらうことになる旨説明したところ、原告川原は「ナイト乗務はリズムが狂うので嫌だ。朝から乗らないとお客の流れがつかめないから営収も上がらない。朝からでないとやる気にならない。」と返答した。そこで、木暮次長は原告川原に対し、ナイト乗務の拒否とみなして欠勤となる旨を伝えたところ、原告川原は無言のままその場を立ち去った。翌三月三日、日交労組常盤台支部の風間書記長は、原告川原とともに同営業所の松嶋所長に対して抗議を申し入れてきた。その際、風間書記長は「本人がこの日に休みたいと言っているので何とか休暇を認めてやってほしい。朝からでなければやりたくないというのは立派な理由ではないか。」と述べたので、松嶋所長は「どうしてもその日に休みたいというのであればその日の休暇を認めることは考えてもよい。ただし、ナイト乗務日は別の日に移すということで了解してほしい。」と説明した。しかし、原告川原は「いや、朝から乗るのでなければ嫌だ。」との発言を繰り返し、松嶋所長が「朝から乗るのでなければ嫌だと言っても、それは誰にとっても同じことでしょう。ナイト乗務は制度として決まって、みんなこれでやっているのだから、あなたの希望だけを聞くわけにはいきませんよ。」と説明しても、原告川原はナイト乗務に応じようとはしなかった。

(二) 原告ら作成の各陳述書(甲第二〇ないし第三〇号証、第三二ないし第三七号証)には、右認定に反する部分が存する。しかし、右各陳述書は、本件年休指定がなされた時期から六年近くも経過した平成八年一一月になって作成されたものであり、かつ、その内容も具体性に乏しかったり、不自然であったりする一方、被告らの各営業所の管理者が作成した陳述書(乙第二二号証、第二八ないし第三二号証)は、前記一の1の認定のとおり、被告らの本社が決定したナイト乗務拒否のための年次休暇申請に対する対応方針に基づき、各営業所のの管理者が休暇申請者にその理由や他の勤務日にナイト乗務を振り替えることの可否を確認したうえ、その経緯を被告らの本社人事部に報告するために平成二年一二月一五日以降一月ごとに作成した「夜間日勤業務指定日における休暇申請状況」に基づいていてその信用性は高く、これら乙号証に照らして、原告ら作成の右各陳述書中、前記(一)において認定した事実に反する部分は信用することができない。

(三) 以上認定した事実によれば、原告らの本件年休指定のうち、原告広瀬(原告番号八)及び原告小早川(同一三)については、それぞれ囲碁部の旅行又は日交労組の旗開きに参加するために年次休暇の時季指定をしたものと認められ、加えて、同原告らの所属する各営業所の管理者において、他の日ヘナイト乗務の振り替えに応じるか否かを確認したことを窺わせる証拠がないことからすれば、同原告らがナイト乗務を拒否する目的で年次休暇の時季指定を行ったとまでは認めることができない。しかし、原告広瀬及び原告小早川を除くその余の原告らについては、ナイト乗務をしたくないがために、割り当てられたナイト乗務の就労を拒否する目的で年次休暇の時季指定を行ったものと認められるから、いずれも権利の濫用であって無効というべきである。

四  結語

以上によれば、被告日本交通は、賃金及び一時金として、原告広瀬に対し一万六八六六円、原告小早川に対し一万五五一二円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。よって、原告広瀬及び原告小早川の請求は、右の各金員の支払を求める限度で理由があるからその範囲で認容し、同原告らのその余の請求並びに原告広瀬及び原告小早川を除くその余の原告らの請求はいずれも理由がないから棄却して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官萩尾保繁 裁判官白石史子 裁判官島岡大雄)

別紙夏季一時金支給表〈省略〉

別紙賞罰事項点数基準〈省略〉

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